クローブの抗菌力を検証~フルーツポマンダーができるまで

西洋に伝わるクリスマスの風物詩として“フルーツポマンダー”があります。
フルーツポマンダーは、いわば香りの魔除け。作り方は至って簡単で、オレンジなどのフルーツにクローブを刺し、シナモンパウダーをまぶして乾燥させるだけです。

材料だけ見ると何やら美味しそうですが、できあがったポマンダーはまさに「フルーツのミイラ」。水分をたっぷり含んだフルーツが、いかにして腐敗せずに乾燥し、ミイラ状態になるのか、それにはクローブの強力な抗菌力が関係していそうです。

そこで今回の実験では、実際にポマンダーを作り、そのままのオレンジと1ヶ月ほど比較してみることにしました。

実験内容
市販の輸入オレンジを4つ購入し、2つはそのまま、2つはポマンダー用に準備します。そして、それらを同じ環境下に放置。時間経過と共に、どのような違いが出るのか、調べてみました。

ポマンダー作りの下準備
(材料)
・市販のオレンジ ・クローブ ・シナモンパウダー
(道具)
・マスキングテープ ・竹串 ・ビニール袋 ・リボン、飾り

クローブは、ホールのものを使います。

今回、重さなどは量り忘れてしまいましたが、ほぼ同じ大きさのオレンジを同じ日に購入してきました。

■ 下準備1 マスキングテープでリボンを巻くスペースを確保したら、あとは竹串で穴をあけて、そこにクローブをぎっしりと刺していきます。
竹串で穴をあける度にオレンジの香りが広がり、さらに、クローブのオリエンタルな香りと混ざって、部屋中がとってもいい香りです。お友達や家族とわいわいおしゃべりしながら作ったら楽しそう!

■ 下準備2 オレンジの表面をクローブで埋め尽くしたら、マスキングテープをとって、シナモンパウダーをまぶします。

竹串で穴をあけているので、結構汁っ気があり、これではすぐにカビてしまうのでは・・という不安に駆られますが、シナモンパウダーをまぶすと、見た目が乾燥した雰囲気になるので、なんだか安心してしまいます。

あとは乾燥させて、リボンで飾りつけをしたら完成です。
乾燥させる過程を、素のオレンジと一緒に観察していきます。

リポート

■1日目

クローブを挿した穴から果汁が染み出て、フレッシュな香りが辺りを包んでいます。

■10日目

2週間くらい乾燥させてできあがり、と書いてあることが多いので、もっと劇的な変化を期待していましたが、さほどの変化ではありませんでした。置いてある場所の湿気が、多かったのかもしれません。

■19日目

事件が発生しました!
実験用に購入したオレンジが1つ余ったので、もうひとつポマンダーを作ってあったのですが、見事にカビが生えました。

特筆すべきは、穴が空いているにも関わらず、クローブを刺していない、リボン用に空けたスペースのみにカビが広がっていること。これは、クローブの抗菌作用なのでしょうか。
ここでどうしても気になってしまうのが、中はどうなってるんだということ。怖いもの見たさで開いてみると・・・ちょっと画像はお見せできないようなこと(カビだらけ)になっていました。

一方、実験体としてのポマンダー2つは、特にカビた様子はありません。しかし、残念ながら(という気持ちになりますね・・・)、素のオレンジも特に腐敗の様子はまだみられません。
ただ、クローブが刺さっている部分と刺さっていない部分の段差があることに気づきました。

そこで、よくよく観察すると、圧倒的に素のオレンジよりもポマンダーの方が小さくなっていることにも気づきます。持ってみると、重さもだいぶ違うような・・・ということで、ここではじめて重さを測ってみることに。

A…324g、 B…303g、
C…202g、 D…200g

という結果が出ました!
んと、ポマンダーの方が100g以上軽い! これは要するに乾燥が進んでいるということでしょうか。クローブが、中の果汁を吸って放出していると考えられますね!
スタート時の重さを測っていないことが悔やまれますが、AとBの重さからおそらく300g前後の重さがあったと考えられますし、クローブの重さも20gくらい加算されてのこの差は、乾燥度合の差といえると思います。

■26日目

いよいよ乾燥した様子をみせるポマンダーは、相変わらずカビも生えず、よい香りを放っています。一方の素のオレンジも、特にカビや腐敗の様子はみえません。
素のオレンジだけにどんどんカビが生えて、「クローブすごーい!」となることを、実験初日からずーっと楽しみにしているのに、全く変わりません。

そうなんです。実験をスタートさせたくらいからうすうす気づいていたのですが、実験担当は、かたくなにそれに気づかないフリをしていました。市販のオレンジには、防カビ材が使われているんですよね・・・・・・。
なので、カビたり腐敗してだめになるというより、しなびてしまうということの方が多いことを、準備段階で失念していたのです。

この段階で腐っていないポマンダーは、もうそれだけですごいはずなのですが、素のオレンジが平然と変化を見せずにいるので、比較対象としては少し設計ミスだったようです。

それでも、ひとつだけ、比較対象としてお伝えできることがあります! それはサイズと重さ!
ポマンダーはぐんぐん乾燥していて、もうパッと見でもわかる程度です。

重さも、前回より20g程度ずつ減っていました。

■35日目

ポマンダーづくりの基準となる2週間、1ヶ月も過ぎ、もうそろそろできあがりにしてもよいだろうという見た目になってきました。そこで急遽、この日を今回の実験の最終日としました。

やはり結果的に、素のオレンジにも腐敗は起こらずでしたが、ポマンダーもカビたりせずに、無事乾燥しました。
クローブ同士の間隔も狭まっていて、縮まったことがよくわかります。

A…324g、 B…303g、
C…202g、 D…200g

最終日の測定では、素のオレンジとポマンダーでは平均して、130g程度の重さの差が生まれていました。

そしてやはり気になるのは中味です! 表面はともかく、中味が腐っていることはないだろうか、ということで開いてみました。

よかった! 腐っていない! 嫌なにおいもしません。
果汁がだいぶ減って、スカスカになっているのが見て取れます。また、よく見ると皮の厚みが倍ほども違います。でも、1ヶ月以上乾燥させてもまだこんなに果汁が残っているのは予想外でした。ポマンダー用のオレンジを切った感触は、ややふにゃっとした干し柿のような、スカスカした感じがしました。

実験担当が3年前に作ったポマンダーは、爪で叩くとコンコンと音がするほどの硬さ。ここまでいくと、本当のミイラという感じですね。

この乾燥した状態に、リボンで飾り付けをして、ポマンダーは完成です。
クリスマスツリーのオーナメントとして飾ったり、香りの効果を期待して、台所に置いたりと活用方法はさまざまです!

結果
適切に作ったポマンダーは、穴をあけても、カビたり腐敗したりせず、見事に乾燥しました。このことからクローブやシナモンの抗菌力がうかがえました。
一方で、素のオレンジには、恐らく防カビ剤が使われており、穴を開けたりしない限り、そう簡単には腐敗もせず、カビも生えないことがわかりました。

今回実験で使用したポマンダーと素のオレンジは、それぞれ1つずつは割らずに、今も事務所の玄関に飾ってあります。もし続報があれば、こちらでお知らせします。
そして次回は、クローブではない何かを刺して作った、疑似ポマンダーとの比較を行いたいと思います。それでは、またお会いしましょう!